2017(H29)年度 山口県小学校教育研究会算数部研究課題

算数の「深い学び」を求めて

様々な面で変化が急速に進み,予測することが難しい今後の社会情勢から,一人一人が未知の課題に主体的に向かい,それらをよりよく解決する力を育成していくことが求められている。平成32年度から完全実施される新学習指導要領においても,そのことが色濃く反映されている。
そのような力の育成は,算数科において求め続けてきたところである。しかしながら,2015年のOECD学習到達度調査(PISA)の意識調査において,数学への興味・関心や,学びの動機付けに関する項目がすべて平均を大きく下回るという結果が問題視されている。自ら算数の学習に取り組めないままでは,求める力の育成を図ることは難しい。今一度,算数科の学習の充実を図りたいと考えたとき,鍵となるのは,数学的な見方や考え方のよさを子ども一人一人が実感できるような「深い学び」の積み重ねである。山口県小学校教育研究会算数部では,算数科における「深い学び」を,次のようにとらえている。

○ 帰納的・演繹的・類推的に課題を解決していく学び
○ 互いの見方や考え方を統合し,よりよい見方や考え方をとらえていく学び
○ 互いの見方や考え方を発展させ,より高次な見方や考え方を求めていく学び

帰納的・演繹的・類推的な見方や考え方を働かせて課題を解決できれば,その経験が次の課題解決にも生かされていくだろう。算数科で大切にしたい思考活動である。
また,課題解決の中で多様な見方や考え方が表出されたとき,それらの共通性をとらえ,統合していくことができれば,本質へと迫っていく学びを経験することができるだろう。
さらに,一単位時間の学びで完結するのではなく,わかったことを基に,思考を拡げていく学びの姿を求めたい。学びのつながりをとらえさせていくことで,自ら算数を創ることのできる子どもを育むことができるだろう。
以上のような「深い学び」を通して獲得した知識・技能は生きて働くものとなり,磨かれた思考力・判断力・表現力は未知の状況にも対応できるものへと高まっていくだろう。そして,それらの経験が,算数を学ぶ喜びにつながり,学びに向かう人間性を育んでいくと考える。

⑴ 「深い学び」を促進する「主体的な学び」を求めて

「深い学び」をめざすとき,子どもが,問題解決の見通しをもち,粘り強く取り組んだり,問題解決の過程を振り返り,新たな問いを見出したりするなど,「主体的な学び」を実現することが求められる。そこで,次のような工夫を,適宜ねらいに応じて取り入れていきたい。

① 自分事としてとらえることができる課題の工夫
② 問いが連続的に発展するような活動の工夫
③ 学びのよさを実感することができる振り返り活動の工夫

子どもの「解決したい」という思いが,学びの推進力となる。そこで,一人一人が課題を自分事としてとらえる過程を大切にしたい。例えば,過去の経験との関連が見えるようにしたり,用いる見方や考え方を判断する場面を設定したりする。子どもは,問いの意識や解決の見通しをもつことで,主体的に課題解決に取り組むだろう。
また,課題解決を行う中で,「だったら,この場合はどうだろう」,「だったら,この状況でもできるのではないか」などと,子どもが問いを見出していく過程を大切にしたい。そのために,「常に成り立つのか」という意識をもって課題解決に取り組めるような活動や発問を工夫し,数値や形を変えてみることから取り組んでいく。子どもは,自分の用いた解決方法が他の場面でも役立つことを実感したり,反例を見つけて自分の解決方法を見つめ直したりしながら,よりよい見方や考え方に気付いていくだろう。
子どもに身に付けさせたい見方や考え方が表出した際には,そのよさを振り返る活動や発問を工夫する。ここでは,一人一人の表現活動を保障すること,取り入れるタイミング,振り返りの観点を工夫することが大切である。そして,表出された姿を教師が丁寧にみとり,評価していくことで,子どもは,数学的な見方や考え方のよさを実感し,自らの問いを主体的に解決する学びのよさを実感できるだろう。

⑵ 「深い学び」を促進する「対話的な学び」を求めて

「深い学び」をめざすとき,自他の見方や考え方をよりよいものにするために,互いの見方や考え方を論理的に伝え合ったり,事柄の本質について話し合ったりするなど,「対話的な学び」を実現することが求められる。そこで,次のような工夫を適宜ねらいに応じて取り入れていきたい。

① 多様なアプローチが可能になる課題の工夫

② 多様な解決方法を比較する活動を促す発問の工夫
③ 互いの見方や考え方を共有する場の工夫

子どもの解決方法に多様性が生まれると,そこに伝え合う必要感が生まれる。多様なアプローチを引き出す課題の工夫をすることで,対話をするきっかけをつくることができるだろう。
また,簡潔,明瞭,一般化などの視点から,よりよい方法はどれかと問うたり,互いの共通点を探らせたりする。子どもは,多様性を比較していく中で,それぞれの見方や考え方のよさに気付いたり,それらを統合させる視点を見出したりすることができるだろう。
互いの見方や考え方が深まってきたところで,それらを共有させる場を設定する。さらに,ここで共有できた見方や考え方が発揮される場を設定することができれば,子どもは本時の学びの価値を自覚し,次時以降の学びに期待をもつことができるだろう。
それらの工夫をより効果的なものにするには,子どもが他者の見方や考え方に関心をもって学びに向かう必要がある。そこで,日々の授業を通して,多様な見方や考え方を生かしていく教師の働きかけが鍵となる。他者とのかかわりを通して自己の見方や考え方が深まる経験を子どもに積ませていきたい。

以上のようにして,「深い学び」を求めて実践を積み重ねていくことで,「算数は楽しい」,「算数で学んだことは役に立つ」という思いが,子どもの中から生まれるであろう。その思いが,算数・数学科で求める資質・能力を向上させ,学びに向かう力を育んでいくのである。
「深い学び」の定義については,実践を重ねながら改善を図っていく必要がある。新学習指導要領の完全実施の際には明確な視点を共有できるよう,一人一人が見通しをもって日々の授業にあたっていきたい。


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