2006(H18)年度 山口県小学校教育研究会算数部研究課題
算数で「考える力」を育む
〜子どもの表現を生かした授業展開の工夫〜
1 研究主題について

今年度から、研究主題を新しく掲げる。
昨年度までのテーマ「算数を楽しむ子どもを育む」は、算数の授業を“楽しい”と感じるだけでなく、算数を学ぶことそのものを“楽しむ”子どもの姿を求めたものだった。
算数嫌いが増加する中、平成10年度の指導要領に「楽しさ」という言葉が導入されたことを受け、子どもの視点で改めて授業改善を行っていく必要性を感じての課題設定であった。
算数における「楽しさ」を追究していくことで、子どもの興味・関心を高める工夫や、算数的活動を用いた「考える楽しさ」を味わわせていく取り組みが表れ、成果をあげてきた。
しかし、その一方で、次の点が課題としてクローズアップされてきた。

子どもに身につけさせたい 学力の明確化と指導の充実

今、子どもに「生きる力」を育んでいこうと各方面で取り組みがなされている。
そのため、子どもに身につけさせたい学力について数多くの論議が起きている。
算数では、子どもにどのような学力が身についたのかを明確にするという視点から、数値に表しやすい知識・技能の指導が数多く実践されている。
また、個に応じた指導として、少人数・習熟度別指導が進んできているが、スタイルだけが先行し、何を教えるのかが不明瞭のまま授業が行われていることもある。
これらの取り組みは、学力を身につけさせていくためには、必要な研究の1つであることは分かる。
しかし、“算数の授業で育むことができる「生きる力」とは何か”という論議がなおざりにされているように感じる。
算数教育が目指すことは、子どもに論理的な思考力を育むことであり、考えることの楽しさや面白さを感じさせることである。
子どもが「自分がもった問いに対して自分なりに考えていく」「自分が考えた筋道を論理的に表現する」といった「考える力」を育むことが、算数で育むことができる「生きる力」ではないだろうか。
そこで、今年度は、「考える力」に焦点を当て、研究に取り組んでいくこととする。

今年度算数部が研究主題に掲げる「考える力」について次のように定義する。

考える力とは、
  日常生活から算数を見出していく力
  問題を解決していく力
  算数を活用していく力
である。

ここで定義している算数で育みたい「考える力」は、算数でいわれている数学的な考え方よりも広い意味でとらえている。
「日常生活から算数を見出していく力」とは、算数独自の見方や考え方、算数の原理や法則などを日常生活の中から見出していくことができる力である。
「問題を解決していく力」とは、数学的な考え方だけでなく、推論の仕方や問題解決の方略などの、問題を解決していく力である。
「算数を活用していく力」とは、算数で学んだ考え方を使って問題を解決したり、新たな問題を発見したりしていく力である。
 上記のように「考える力」をとらえると、算数は子どもが生きていく上で大きな役割を果たしていることがわかる。
単純化され、要素を限定した世界で行われ、分かりやすく解決を進めていくことができる算数だからこそ、「考える力」を明確にして育みやすいのではないだろうか。
そして、子どもは、算数で育まれた「考える力」をもとに、より複雑な問題や困難な問題に立ち向かっていくのである。
このような姿が「考える力」の生きて働いている姿であると考える。

2 サブテーマについて

今年度、新たな研究主題のもとで、各ブロックで研究を進めるにあたって、次のようなサブテーマを掲げる。

子どもの表現を生か オた授業展開の工夫

 子どもに「考える力」を育むためには、子どもの表現を大切に扱っていく必要がある。
それは、子どもの「考える力」が形となって表れるものが表現であり、形に表れているからこそ、「考える力」を育みやすくなるのである。
子どもは、表現をすることで、自分なりに考えるのであり、子どもの中にある「考える力」を形に表すのである。
教師は、子どもの表現の中に、考える子どもの姿を見取ることができるのであり、子どもの表現にある「考える力」をつなげていくことができるのである。

子どもが表現するものは、ノートにかき表した絵や図・式、ブロックやおはじきなどの操作、授業の中で話している言葉など様々ある。
「考える力」を育むためには、いかに子どもの表現にある「考える力」を教師が見取り、他の子どもとかかわらせながら授業を展開していくかが重要になってくると考える。
そのためにも、子どもの表現を生かした授業展開を工夫していく必要があるのである。

授業展開を工夫していくために、次の2つの視点を大切にしていきたい。

視点1
 授業における「考える力」の明確化
「考える力」を育むためには、まず、この単元・この教材を行ったときに、子どもに、どのような「考える力」が伸ばせるのかを明確にしておくことが必要であると考える。
そして、この1時間の授業で子どもに育みたい「考える力」は何なのかを教師が明確にとらえた上で、授業を行うことが大切なのである。
「明確に」とあるが、それは、「考える力」が育まれている子どもの具体的な姿が明確になっているということである。
授業の中での子どもが話している言葉、かき表したものや操作したことに、どのように「考える力」が表れてくるのかについて、教師が細かくとらえておく。
そうすることで、子どもの「考える力」を育むための支援を的確に行うことができると考える。
授業における「考える力」を明確にし、授業を展開していくことで、「考える力」を育むことができると考える。

視点2
 他者とのかかわりの重視
 「考え」は、自分の考えを他者に向けて表現したり、他者の表現したものを受け入れたりする活動を通して整理され、洗練され、深められる。
したがって、子どもは他者とのかかわりの中で、他者の表現しているものがどのような考えなのか自分なりにとらえたり、お互いの表現を比較しながら納得がいくまで考えたりすることによって、他者の考えのよさやよりよい考え方を学び、「考える力」が育まれていくのである。
そのため、教師は、子どもの表現を生かしながら、他者とのかかわりを重視した授業展開を行うことによって、「考える力」を育んでいくことができると考える。
そのために大切なことは、この授業ではどのような考えをどこでかかわらせていくのかについて、授業展開を十分に考えておくことである。
子どもの表現を生かした、他者とのかかわりをしっかりと組織することによって、「考える力」を育むことができると考える。

以上、2つの視点について述べた。これら2つの視点は相互に絡み合っているのであり、各ブロックでの実践で、研究対象として明確にしながら取り組んでいただきたい。